5月末の土日に、松本のクラフトフェアに行ってきました。
全国から280名近くのクラフト作家が集まるイベントです。この2日間の松本はたいへんな賑わいになります。毎年5月の一ヶ月間は「工芸の五月」という企画で、多くのクラフト関係のイベントや展覧会、ワークショップが街中のいたる所で開かれています。雑貨や家具の店はもちろん、今回は新たに見出された古い蔵を使ったカフェギャラリーなどもあり、会場も魅力的なところばかりでした。そしてなんといっても、作家の方に直接いろいろお話を聞くことがとても楽しく、貴重な機会となりました。
なつかしい場所なので、今回はついつい長話です。
とくに興味深い作品をつくられていた、お二方とのお話を少し。
あがたの森の会場では、ナカオタカシさんの作品に注目。FRPでトレーや箱やランプシェードなどをつくられていました。どれもFRPの素朴な半透明の素材感を生かしたものです。家具や防水の材料としては一般的なFRPですが、上から着色を施してしまうことがほとんどなので、独特の半透明な質感が生かされているものはなかなかありません。いつも不満に思っていたので、とてもうれしかった!ついウキウキでペーパーウェイトを購入(それで満足してしまって、残念ながら写真はありません…)。鉛の粒をFRPの型に詰め、フタをして上から紙を張り、またFRPを塗り重ねるという、かなり時間のかかる工程なのだそう。この紙の質感が少し透けているのも良いです。ペーパーウエイトは、初めて使ってみたのですが、机の上で資料を開いておく時に大変重宝しています。
もうお一方は、ガラス作家の艸田(くさだ)正樹さん。右上の写真にある、古い石蔵で開かれていた「水のカタチ」展でお会いしました。やわらかくゆらゆらとした表情のガラスの器を「ピン・ブロウ」という独特な技法で製作されています。息を吹きこむ一般的な「吹きガラス」では、どんな形でも作れる技術が確立されていて可能性を感じない、「ピン・ブロウ」の一回性で作為のないつくり方がしっくりくるんだ、というお話をうかがいました。ものづくりは完全に無作為になることはできない宿命。悩ましい姿勢かも、、と思いつつ、自分が日々ぼんやり考えていることでもあるよな、、と共感。艸田さんの作品は、こうした姿勢を反映してか、作品が集合した時に醸し出す全体の雰囲気がとてもよかったです。
8年前、家人の安曇野での仕事の都合で、1年余り松本に住んでいたことがあります。そのおかげで、もともとの工芸・雑貨好きがますます加速!いまの散財癖もそのときに培われました(笑)。当時よく通っていたのは「ギャルリ灰月」。週に一度は行っていたなぁ。その灰月の展覧会で出会ってしまった、三谷龍二さん(いまやクラフトフェアの総合ディレクションをされている!)の木のバターケースはいまでも大切に愛用しています。バターの油分が木の器にとっても良いため、手入れ知らずのいい関係なのです。 工芸ではありませんが、もうひとつよく通っていた場所は、昭和な映画館「中劇」の一室にあった「松本シネマセレクト」。単館系映画を自主上映している映画館でした。テルミン奏者の演奏付きだった「テルミン」、イラン映画特集などが特に印象に残っています。当時はウェブサイトなどもなく、階段の張り紙で上映日をチェックして通ったっけ…。半年前に訪れた時、取り壊されてマンションに建て変わっていたのはほんとうにショックでした…。
こうした縁で松本と安曇野は、東京に戻ってきてからも、ふとしたときに、どうしようもなく行きたくなる場所になりました。とくに肌寒くなってくる秋口が弱い。新そばの季節だったりもして、ね(笑)。美しい自然も、独自の文化も、居心地のいい場所なのです。それにしても最近の松本は、こうした贔屓目なくしても、どんどん元気な街になっている気がします。気になるショップやギャラリーも増えていました。今回訪れたのは、松本市内の「laboratorio」と、安曇野の「nagi」。どちらも作家さんの、工房+ギャラリーショップ+住居です。「laboratorio」は、松本市内にある、石のレリーフが美しい古い薬局のリノベーション。「nagi」は、安曇野山麓の森の中の一軒家です。建物の様子や立地、そして端々に感じられるセンスとつくる道具が重なって、全体で価値観を表現する場となっていました。設計事務所もこうありたいと思いますね。
そして旅といえば食事!食いしん坊の我々3人(友人EさんYさんと私)は、イタリアンの「みたに」でディナーを満喫。なんといっても3ヶ月前、クラフトフェアに行くことが決まったときに真っ先に予約したお店(それでも最後の一組だったのですよ)。中村好文さんの空間と、シェフのご主人と奥様の接客が居心地のいいレストランです。自家製のハムがおいしかった~。ワインが進む進む。やっぱりコレは欠かせません!
松本よ、またねー!